【健の指導教諭記録】
放課後の社会科準備室は、この時期だけ人が多くてにぎやかだ。
実習生二人と、それぞれの指導教諭が、今日の授業の反省と打ち合わせをしている。
隣の国語科準備室で行われている、竹森先生と菫の打ち合わせが終わるまで、俺もここで教材研究をしていた。
隣のドアの音が聞こえて、誰かが出て行ったようだ。
そろそろ国語科の打ち合わせが終わったのだろうか?
俺も職員室へ戻ろうかと思ったその時。
誰かが国語科準備室へ入って、何やら話している。
「深瀬先生、安西先生が困っていますよ」
ここに居てもかすかに聞こえる、竹森先生の声に驚く。
やっぱりあいつ、何か菫にちょっかい出したのか!?
許さん!
だが、ここは竹森先生にお任せするほかない。
すぐそばには、他の教員と実習生もいる。
教材研究を続けているふりをしながら、耳に全神経を集中させていた。
隣で打ち合わせをしている二組の会話が邪魔で、ほとんど聞き取れなかったが、なんとなく指輪がどうとか言っているのが聞こえる。
指輪、外してたのに何でだ?
それから、やや大きな声で。
「そうだ! 松本先生に出世払いしてもらっちゃおうかしら~。ふふふっ」
ここで突然俺の名前が出てきた、ということは。
……ばれてる?