イスに座った俺にすぐさま「Be Gentle!」と何度も言った。

要するに、自分の大事なドラムキットを叩かせたくなかったらしい。

その時は、「ビー・ジェントル!」と言われても理解できなかったが、
なんとなく「優しく叩け!」と言おうとしているのはわかった。


「大事なドラムキット貸したくないんだな・・・大丈夫そこら辺は心得ているから。」


確かに初心者やパンクのドラマーなどは無駄な力を思う存分使っているので
自分のドラムキットを貸したいとは思わないだろう。

無駄な力を使っているかいないかは手首を見れば大体わかるものだ。

俺はジョノのドラマーに「まぁ、見てろよ!」と、ウィンクしてやった。

ノリさんが「準備OK?」と俺の方見た。

俺は「OK」と、うなずくとギターのイントロが始まった。
すると相変わらず会場は大盛り上がり!


「いや~こんなに盛り上がってくれるとサービスしたくなるな・・・」


俺は調子に乗り、歌を邪魔しない程度に高速フレーズを展開したが、
ほとんどの人は理解しているはずもなく・・・

この時の俺のプレイはオナニーと同じで自分だけ満足してるだけなのだ。

それでも観客達は踊ったりして、盛り上げてくれる。

しばらくしてふと横を見るとジョノのドラマーが怖そうな顔でこっちを見ている。


「やばい!ぶっ叩きすぎかな?」


演奏が終盤に掛かって、いよいよドラムソロ!

俺はジョノのドラマーの事を気にせず,ヒドく叩いてしまった・・・

会場はさらに沸きあがり、オーディエンスが見えないほど照明が俺達を照らし
つける!

日本でプレイしていた時は、オーディエンスは大人しく、
いかにも「付き合いで」拍手しているように見えた。

しかしここでのオーディエンスは明らかに日本とは大違いで
ケアンズに来て早くも「大スター」になった気分だった。


「やっぱり音楽やってて良かった!」


いまだ照明が俺達を照らしつけ拍手喝采が起こっっている、
まるで夢を見ているようだった。

顔面神経痛になるんじゃないかと言うぐらい笑顔を振りまいていると、
ジョノのドラマーが近づいてきた。