「あなたがグリフの追っかけだって言うのはわかるけど、ごめんなさい? 他のお客さんのご迷惑なのでどうか、お引き取りください」

 初めにナイフで斬りかかったのは深紅のウェービーヘアの子。巨大な肉の塊に添えてあったやつで……

「邪魔なのよ!」

 派手な立ち回りをして相手をぎゃふんと言わせる気だったのだろう。
 
 ところが、かえす少女も負けてない。

「なんですって!」

 バラ色の肌がすっごくきれいで清楚なブルネット……給仕のひと。

 二人とも肉切り包丁を食卓から取って、ふり回す。

 信じられなかった。

「あんたなんか、あんたなんか」って大声出して。

 もう、こっちは食事どころじゃなくなってしまった。

 しまいに原因はこちら、ということで入店拒否をくらった。

 あとでグリフはあたし達に謝ってから言ったんだ……。


「大丈夫、あんなの全然本気じゃないよ。ほら見て」

 と促されて彼の両手のひらを見た。

 ミミズ腫れにさえ見えてしまう縫っただけの跡。

 ……充分、痛そうだよ、それ。

 あたしは言葉を飲み込んだ。

「殺し合いだったら、刺してくるはずだよ。こんな傷、女の子に見せるもんじゃないけど。知っておいて。刺されると思ったら、逃げて」

 あたしは思わず言葉を無くしたっけ。

 味方がパニックにならないように素手で二人の刃をつかんだ。

 彼を奪い合う二人の女の子を傷つけない為に。

 そしてあたし達に言うんだ。

 危ないときには逃げろって。

 自分だけ、騒動の中に残って。

 こんな優しいひとっている? ううん、そんなこと露骨に言ったら彼は否定してしまうに違いない。

 それは彼が本物のファイターだからだ。


[……刺されると思ったら、逃げて]