そんな中、七月になって二回目の土曜日を迎えた。でも、私の頭の中は廉君でいっぱいだった。どうして廉君はあの時、あの場を走り去ったのだろう。そして、今思えば、どうして私があの歌の話をした時、あんなにも難しそうな顔をして居たのだろうか。
 考えれば考える程、分からなくなる。頭の中がぐちゃぐちゃになる。でも、たった一つだけ言えることがあった。
(………苦しいよ、)
 廉君のことを考えるだけで、私は胸がいっぱいになった。苦しくて、痛い。廉君と話が出来ないことが、こんなにも脳内を、心を、支配してしまうということなのだろうか。
 いや、それだけじゃない。もっと私に笑顔を向けて欲しいの。悪戯な笑みで、私をからかって。そしてもっと、あの優しい、甘い声で、私の名前を呼んで……?
 きっと私は、貴方が――――。


 ―――トントン
「夏稀」
「……お兄ちゃん」
 私が自室で思い悩んで居ると、これから店に行かなきゃならない筈の兄が、部屋のドアをノックした。
 どうしたの、とドアを開けて尋ねる。すると兄は困った様に笑った。
「ちょっと話……良いか?」
 ――どうして今まで私は、自分で気が付くことが出来なかったのだろう。
 難しそうな顔をする彼。私が口ずさんだあの歌を聴いて、走り去ってしまった彼。どうして、どうして。