「夏稀、ごめん! バスケ部のミーティングにちょっと行かなきゃならないから、此処で待ってて」
 放課後、華織ちゃんにそう言われ、私は教室で一人、彼女の帰りを待っていた。
 じめじめとしていた梅雨の時期はとうに過ぎ、高校生活二度目の夏が来た。昼間は照り付ける太陽の陽射しが眩しいけれど、夕方になると、朱に染まる空が空を巻き込んで、とても綺麗である。あと少し経ったら、蝉が鳴き始めるのかな。
(暇、だなあ……)
 窓の外を見れば、サッカー部や野球部が校庭を駆け回る姿が視界に入る。そういえば、廉君と壱ノ瀬君は軽音部だっけ。ギターとか弾くのかな。
 廉君があの歌を歌ったら――きっと、素敵なんだろうな……。
 私はそっと目を閉じて、あの歌を口ずさんだ。


 ――瞳を閉じれば、浮かぶ、君の姿
 ほら、僕はまた夢を見る
 僕に優しく微笑みながら 幸せそうに
 愛の言葉を紡いだ 君の姿を――


「………夏、稀?」
 突然名前を呼ばれて、私は声のした方へと振り向く。そこには、目を丸くして驚いた様な表情をする、廉君が佇んで居た。
「っ―――!」
「廉く、!?」
 私が彼の名前を呼ぼうとしたのと同時に、何故か彼はその場を走り去ってしまった。彼を追い掛けようと、教室の扉まで私が辿り着いた時には、もう既に彼の姿は、そこにはなかった。
 その日以来、私と廉君はどうしてか、殆ど言葉を交わさなくなってしまった。華織ちゃんと壱ノ瀬君は、私達をとても心配そうな目で見ている。
 でも、私自身がどうしてこうなってしまったのか分からなかった。だから、二人にも困惑の表情を見せるばかり。どうしたら良いのか、全く分からない状態だった。