「こんな所でアルバイトしてたのね、可愛いわよ、夏稀ちゃん」
「め、芽依子先生……!」
 驚いた。何時も一つに結んで居る髪の毛を下ろしているだけで、先生だって気が付かなかった。
 思わずぼおっとしていると、何故かそこに私の兄がやって来た。
「ほら夏稀、お前何ぼけっとしてんの、ちゃんと働く!」
「お、お兄ちゃん……」
「お兄ちゃん?」
 私と兄の会話を見ていた先生が、ぽつりと声を漏らした。私は先生に兄を紹介しようとしたが、それは兄によって遮られる。
「嗚呼、こいつ、俺の妹」
「……は、」
 え、ちょっと待って。どうしてお兄ちゃんと先生が、そんなに親しげなの。
 説明してよ、と兄に目で訴えた。兄はそんな私の顔を見て、一瞬ポカンと間抜けな表情をしたが、すぐに声を上げて笑った。
「はははっ、夏稀、知らなかったのかよ? 俺、芽依子と付き合ってんの」
「う、ええ!?」


 私は兄から、二人が付き合うまでの経緯を聞いた。
「俺と芽依子は大学が一緒で、芽依子は俺の一つ先輩。サークルが一緒だったから、そこで知り合ったって訳」
 そんな、初めて聞いた。大体、兄に彼女が居ることすら知らなかったのに。
「何でこんな綺麗な彼女が居ること、教えてくれなかったのよ」
「いや、別に隠してるつもりじゃなかったんだけど」
 まあ、初めから知ってたら、新しいクラスの担任として芽依子先生に会った時、絶対に気恥ずかしくなっただろうから、別に構わない。
 すると先生が、あ、と思い出した様に声を上げた。何だろうと首を傾げると、先生は私に向かって綺麗に微笑んだ。
「そういえば、良い機会だから教えるね。神城廉、居るでしょう? あれ、あたしの弟なの」
「っ! そ、そうなんですか……」
 私は、廉君の顔を思い浮かべた。確かに、綺麗な顔立ちは先生にそっくり。この駄々漏れな色気も、本当、似てる。
「最近貴方達、仲良い様だから、あんな奴だけど宜しくしてやって、ね?」
 そして人をからかう様なこの、悪戯な笑顔も、本当に……彼と、そっくりだった。