春も過ぎ去り、何時しか辺りには夏の兆しが見え始めていた。校庭の桜も、何時の間にか青々とした葉をつけ、鬱蒼としている。
 六月になり、私のクラスでは今日、SHRの時間を使って席替えをすることになった。まだ高二になって新しいクラスになったばかりなのに、もう席替えするんだ、と戸惑ったが、担任の神城芽依子先生の計らいで、私達は新しい席へと移動することになった。
「席はあたしが決めたから。この二ヶ月での皆の様子を見て、ある程度仲の良さそうな所は近くに。あと、男女のバランスを考えて配置しましたー」
 まさかとは思うけど、授業中ふざけたりしたらタダじゃ済まさないからね、と芽依子先生の忠告(そして余りにも清々しい笑顔)を受け、皆はこくこく、と首を縦に振る。
 芽依子先生は、若くてとても綺麗だ。でも、絶対に怒らせてはいけないタイプだと思う。普段はとても優しいのだけれど。そして授業の分かり易さにも定評がある先生は、美貌も含めて、生徒達にかなりの人気があるのだ。
 先生の言う通り、皆それぞれ仲の良い子と席が近い様で、誰も不安を零す人は居なかった。実際私も前の席に、このクラスで一番初めに仲良くなった、藤咲華織ちゃんが居る。
「メイちゃん、さっすが! ね、夏稀!」
 華織ちゃんは、ぱちんとウインクをして笑った。彼女はとても明るい性格で、誰とでも仲良くなれる、社交的な子である。此処の教室で初めて会った時も、笑顔で声を掛けてくれたのだ。
「うん、これなら毎日楽しいね!」
「だからね! しかも窓際の後ろの方なんて、超良いポジションじゃん」
 教室の席の配置は、縦に六列、横に六列である。私の席は一番窓際の、前から五列目だ。窓際の後ろの方というのは、外の景色が良く見えるから、その分得した気分になる。
 私がぼんやりと外の景色を眺めて居る間に、華織ちゃんは他の近くの子達と談話していた。隣の席の女子も、自分の友達と話していて、声は掛けづらい。
(後ろの人は……男子二人、)
 私の斜め後ろの男子は、自毛なのか少し茶髪である。垂れた目尻が優しい印象を与えている。そして、私の後ろの人は……。
「お、前の子、夏稀ちゃんじゃねえか!」