金曜日、あたしたちはライブハウスNinaにいた。



ライブハウスのドアを開けると、

「よっ、いらっしゃい」

声をかけてくれたオーナーの鳩田さんとも顔なじみになりつつある。


「あ・・・、彩香、あの子いるよ」

菜美があたしの腕を引っ張ってささやいた。


いずみちゃんは今日も、一番前の隅っこで、一人立っていた。

今日も、制服姿。

若いし、きれいだし、やっぱりかなり目立ってる。

あたしたちに気づくと、笑顔で

「こんばんは。後15分くらいで始まるみたい」

「今日も混んでるね~」

あたしも笑顔で返しつつ、ちょっと複雑だった。



『あいつが俺の妹だってこと、内緒にしてくれる?』

あの日、陽斗はあたしにそう頼んだ。

『あいつ、親が結婚のときのゴタゴタとか、おれの母親が死んだこととかで、近所からいろいろ言われて、子供のころから辛いことが多かったから、あんまり周りに知られたくないんだよ』


このことを知ってるのは、家族やご近所以外では幼なじみの乾くん兄弟くらいしかいないらしい。


そんな秘密を、あたしを信頼して教えてくれたことが嬉しくて、



だから、あたしも菜美にいずみちゃんの秘密を伝えてなかったんだけど、

それが思いがけない事件につながるなんて、想像もしてなかった。