「参ったなあ、目が腫れて電車に乗れないよ。泣いてたって丸分かりだし」
まぶたを押さえるあたしにいずみちゃんは、
「花粉症の振りしてればいいんじゃないの?」
「おお、グッドアイデア!帰りにマスク買ってこうかな」
人前で泣いてしまったせいか、妙にテンションの高いあたしたちはワイワイ言いながら駅に向かって公園の中を抜けていった。
桜の木々は枯れたように乾いた枝を伸ばしていたけれど、空気はなんとなくしっとりと柔らかい。
公園の出口に近づいたとき、隣を歩いていたいずみちゃんがはっとしたように急に立ち止まった。
その視線の先には、ベンチに腰掛けた小さな人影がある。
菜美だった。
暖かそうなコートの下に、淡いピンク色のスカートがチラリと見えた。
あれはお気に入りの一枚だったはず。
あたしたちに気がつくと、菜美は緊張したようにぎこちなく立ち上がった。
手には小さな包みがある。
いずみちゃんの横顔は固く、唇はキュッと結ばれている。
あたしたちは3人とも無言で、ここだけ違う空間に包まれてしまったみたいだった。
菜美はあたしたちにゆっくり近づくと、いずみちゃんに向かって
「お久しぶりです。去年は・・・失礼なことを言ってごめんなさい。」
口ごもりながらそう言った。
いずみちゃんは黙って菜美を見ていた。
あたしはそんな2人を見つめている。
「あの時は、あなたと戸田君のことをぜんぜん知らなくて、自分のことでいっぱいいっぱいで・・・。本当にごめんなさい」
「いっぱい泣いたよ」
いずみちゃんの言葉に、菜美はさっと顔をこわばらせた。
「昔から言われてた言葉だけど、やっぱり慣れないし、ぐさっときた」
「それは本当に・・・」
「でも」