あたしが黙り込んでもいずみちゃんはしばらく口を開かなかった。

エスプレッソの入った小さなカップを包み込むように握って、うつむいている。


「わたしね・・・、小さい頃から思ってたんだ」

ポツリといずみちゃんはつぶやいた。

「わたしほど、陽斗を好きな子はいないって。わたし以上に陽斗を想っている子が他にいるはずないって」

そう言って、手のひらの中のカップを強く強く握りしめた。

まるで絶対とられたくない宝物のように。


「ほんとはそう思ってた。だから妹でも友達でも、どんな立場でもいいから陽斗のそばにいたかったの」


あたしはドキッとした。

いずみちゃんの目はいつの間にか潤んでいて、今にもあふれそうになっている。


「でも違ってたのかな、やっぱり。今の彩香の話を聞いてそう思った。」

「あたしの・・・?」

「本当の、本気の恋だったんだね。彩香の恋は。じゃなかったら、さっきみたいなこと言えないと思う」


ありがとう、いずみちゃんはそうつぶやいた。


小さな声だったけど、確かにあたしに届いた。



「ありがとう。陽斗を、お兄ちゃんを好きになってくれてありがとう」



いずみちゃんの目からついに涙が一粒落ちた。


その涙はあたしの心に沈み、じんわりと広がっていった。