変な間が空いた後、「雨宮って、なんか言いにくいな。紬って呼んでいいか？」と聞かれた。

自分でも時々舌を噛みそうになる苗字なので、「別にいいけど」と言ったものの、男の子から名前で呼ばれた事はないし、ましてや学校一のモテ男の桂木君から、私なんかが名前で呼ばれていいんだろうか…

『やっぱりダメ』って言おうかなと思っていたら、

「俺の事は琢磨って呼んでくれていいし」と言われた。

彼女でもない私が桂木君を『琢磨』って呼ぶのは絶対に無理なので、それはきっぱりとお断りした。


絆創膏で十分なのに、桂木君は包帯を巻いてくれた。

下を向いて無言で作業をする桂木君は、うまく行かないのか時々「ハァ」と溜め息をつく。

その時の桂木君の息が私の手に触れるたびに、私の心臓が跳びはねた。

静まり返った保健室で、その鼓動が耳の中でずっと鳴り響いていた。