え? 何? どうして?

私は桂木君の力強い腕に抱きすくめられ、身動き出来ずにいた。

ドクンドクンと、胸から心臓の鼓動が聞こえてくる。これは私の心臓の音? それとも、桂木君の?

嫌ではなかった。むしろ温かくて、安らぎさえ感じていた。

どのくらいそうしていたのか…
ほんの一瞬かもしれないし、あるいは数秒か数分か…

まるで、時の流れが止まってしまったみたいだった。

私の背中に回った桂木君の腕から力が抜けた。

「ごめん」

と言って桂木君は後ずさり、桂木君の温もりも離れて行った。そして、それを寂しいと感じる私がいた。

「桂木君…?」

桂木君は、悪戯を叱られた少年のような、ばつが悪そうな顔をしていた。