「俺こそ、紬に無理させちまって悪かったな?」

「ううん。いろんな経験ができて、楽しかったよ」

「俺もさ」

そう言って微笑みながら、桂木君は私を見つめていた。
私も桂木君を真っすぐに見つめていた。すっかり陽が落ちて、暗さが私を大胆にさせたみたい。

不意に桂木君がブルッと震えた。

「あ、桂木君、寒いよね?」

「じっとしてると、ちょっとな」

「ジャンパーとかあったら良かったんだけど、家には男物がなくて…」

「大丈夫だよ。自転車を漕げばまた暑くなるから」

「そう? じゃあ、車に気をつけてね」