「紬、寒くないか?」

「ううん、大丈夫だよ」

冬に差し掛かった夕方の風は、頬にひんやりとして、ブレザーの胸元がスースーした。

でも、桂木君の背中から熱が伝わって来る気がして、寒いとは感じなかった。

不意に桂木君に手をギュッと握られた。

「手が冷たくなってるぞ。俺のトレーナーの中に入れとけよ」

そう言って桂木君は私の両手をトレーナーの中に入れてくれた。

「どうだ?」

「うん、暖かい…」

その暖かさが桂木君の温もりだと思うと、恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。

「あ、桂木君はトレーナー一枚しか着てないから、寒いよね?」

「全然大丈夫。自転車漕いでるから、暑いぐらいだよ」

「あ、ごめんなさい。私、重いから…」

「へえー、何キロあるんだ?」

「えっとね…」

「ストップ! 女の子はふつう、体重は秘密にするもんだろ?」

「そうなの?」

「そうさ。姉貴にそんな事聞いたら命が危ねえよ」

「もう…大袈裟なんだから…」

「いや、ほんとに」


そんな他愛のない会話が、私にはとても楽しかった。