電車に乗り込み葵は座席に腰をかけた。

車窓に映るその顔は少し強ばっていた。

軽く目を閉じ、眠ろうするが、ひろしの言葉が脳裏をよぎった。

「今度いつ会えるかな?」

ひろしはきっと精一杯の勇気で葵に告げたに違いない。悲しさと愛情の中でそう。

ひろしとは半月以上会ってはいなかった。

特別な理由はなかった。何となくそういう気分じゃないだけだ。

しかし今夜はひろしの声に、言葉に救われた。

得意ではなかったこの優しさが今夜はとても染み入る。

―優しさだけでは― と思う葵だったがやはり時にそれは人を救う。