「もしもし?私。葵。今大丈夫?」

ひろしに電話を掛けた。

葵から掛けたことは記憶の中では今まで一度もなかったはずだ。

「もしもし?どうした?」

ひろしは驚いた声を出したが、相変わらずいつものごとくその声は優しかった。

「今ね、テレアポのバイトから帰るとこなの。何となくひろしの声が聞きたくなってね。」
「そっか。
葵から掛けてくれることって無かったからすごく嬉しいよ。
それより今日は少し遅かったみたいだね。
疲れたと思うからゆっくり休んで。
あと・・今度はいつ会えそうかな・・?
今じゃなくていいんだ。また、その・・葵の都合の良い日を教えて欲しいよ。」

ひろしは小さく、そして強く葵にそう伝えた。

「分かったよ。
ごめんね、地下鉄来たからもう切るね。」

葵はそそくさと電話を切り、鞄にしまった。