ぎこちない笑顔と愛想笑いを終え、葵が店を出たのは11時を少し回ったくらいだった。

8000円の日当を鞄に詰め込み、大急ぎで駅を目指して走っていた。

終電には十分間に合う時間ではあったが葵はひたすら走り続けていた。

高ぶった心臓が更に鼓動を早める。はぁはぁと息が切れることが何故か心地よくさえ感じていた。

まるで誰かに追われているような気持ちは一体何処からやって来るのだろう。

(怖かったのだろうか?情けなかったのだろうか?
恥ずかしかったのだろうか?
それとも・・?)

上手くまとまらないこの感情に葵は苦しんでいた。

葵はコートを着ることさえ忘れ、ただひたすら走り続けていた。立ちっぱなしで痛んだ足が悲鳴をあげていた。冷たい風が顔を切る。

やがて、「地下鉄のりば」の薄暗い表示を見つけると、葵は少しだけ落ち着きを取り戻すことが出来た。