いくつもの夜を重ね、今夜も小さなその店に葵はいる。

成人式を明後日に控えた葵だったが今夜もスナックのアルバイトに身を捧げていた。

ミキママに説得され、こうして店に立ち半月が過ぎようとしていた。

「葵ちゃん、今日金曜日だからラストまで居られるかしら?タクシー代は出すからお願い!」

「分かりました」

「頼りになるわぁ~本当に助かる」

美人ママのお陰なのかスタッフの質がいいのか、店はカウンターを全て埋める日が連日続いていた。

ママの笑顔も今夜はどびっきりだ。

スナックは終始立ちっぱなしである。ママの居ない時間に清ちゃんや優しいお客さんがカウンターに座らせてくれる時もあるが基本は立ちなのだ。

そのため体力的に続かなくなるスタッフも少なくない。

洗いものをしている間もお客を退屈にさせぬよう葵は終始笑顔で話を続けた。

冷たい水が葵の指先を刺すように流れていたがそんなことは気にも留めていなかった。

長い夜はこれから始まる。