男の車に乗るのはとても久しぶりのことだった。

ついさっき会ったばかりの男の車に私はこうして乗っている。

葵は軽く眼を閉じた。
アルコールは疲れた身体の隅々にまで行き渡り心地よい眠りに導いていた。


しかし葵は眠い目を擦り、話を始めた。

「阿倍さんは彼女とか居るんですか?」

「君のことが好きなんだよ。」

答えになっていないその答え。

「結婚は?」

「20歳の頃に一度だけ。」

「上手くいかなかったの?」

「まぁ昔のことだよ。あんまり思い出したくないな。」

「そう・・。」

葵はそれ以上聞くことを辞めた。

「何処に行こうか?何処か行きたいところある?」

阿倍は葵を見つめ精一杯紳士的に振る舞った。


「何処にもいかない。私明日仕事あるから。」
葵は冷たく言い放つ。
「お昼間も仕事してるんだ。偉いね。」

阿倍は特に表情を崩すことなく運転を続けた。
赤信号もきちんと止まる。走り出しも非常に安定している。

マンションの近くになり、葵は「じゃあこの辺りで。」

と伝えると阿倍は静かに止まってくれた。

「毎日君の顔が見たいんだ。」

阿倍は真っ直ぐな瞳で情熱的に葵に伝えた。