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店の奥の和室は、小さなロッカールームとなっている。


ロッカールームといっても、此処、花咲文具店には制服がない。


ただ1人のアルバイトであるサエは私服の上から持参のエプロンをつけているだけだし、店を取り仕切る自分にも、特に決めた服はないわけで。


錆び付いたロッカーを無視し、九十九はタンスから適当な服を引っ張り出して袖を通した。




「あーあもう嫌んなっちゃうなぁ。客は来ねぇし、アルバイトも決まんねぇし、アレも無くなっちまうし」




しわの寄った白のワイシャツを着終えると、紺色のズボンを穿いた。青のエプロンをして、再び廊下へ出る。




「いっそ店なんか畳んで、旅行にでも行くか?そうだ、京都行こう。的な感じで…あー…駄目だ。夏の京都は暑いんだよな」




ぶつぶつと呟きながら店へと続くドアに手をかける。




「どうせ行くなら寒いとこが良いな。信州とか東北とか…北海道とか。北海道行きてぇな」




ガラガラと扉を引くと、サエが待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。




「九十九さん!来ましたよ!」



「何が」



「アルバイトですよ!アルバイト!貼り紙効果抜群でしたね!」




話に付いていけていない九十九をよそに、サエは「とにかく向こうで待ってますから、会ってあげて下さい!」と九十九の腕を引っ張った。



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