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男は眠りから覚めたところだった。
艶やかな灰色の髪をわしゃわしゃと躊躇いなくかき回し、大きな欠伸を一つしてから、ようやく布団から起き上がる。
ぼりぼりと脇腹を掻きながら、「んん」と伸びをし、襖を開け、廊下のつきあたりの扉を開けた。
「ありがとうございましたぁ!またのお越しをお待ちしてまァす!」
客を店から見送っていた女性が振り返り、「あ!」と声を上げた。
「九十九さん!ダメですよう、パジャマのまんまお店に出てきちゃ」
ひょっこり顔をのぞかせていた男は、叱られたように顔をすくめる。
「や、着替えの服がなくて」
半分寝ぼけてモゴモゴと口を動かす男を遮り、店員の女はキャンキャンと話す。
「イケメンは何着ても似合いますけどね、いくらなんでもパジャマはないですよ」
「や。だからその着替えがさ、」
「式島さんに叱られちゃいますから、着替えてきて下さい!アタシ、九十九さんの世話係じゃないんですからね!」
「…………」
九十九(つくも)、と呼ばれた男は諦めたのか、話題を他に移した。
「ところでサエちゃん。例のアルバイトの紙、貼ってくれた?」
サエは「貼りましたよ」と胸を張る。
「ばっちし入り口の脇にあります。文具店って意外と人気だから、すぐ応募ありそうですよね」
弾む声とは裏腹に、九十九は「やだなぁ」と呟いた。
「新人研修、あれ憂鬱なんだよなぁ」
「ゴネたってダメですよ。あたしの任期は来月までなんですからね」
つんとしてレジに向かうサエを恨めしげに眺めてから、九十九は渋々着替えのために店の奥へ引っ込んだのだった。
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男は眠りから覚めたところだった。
艶やかな灰色の髪をわしゃわしゃと躊躇いなくかき回し、大きな欠伸を一つしてから、ようやく布団から起き上がる。
ぼりぼりと脇腹を掻きながら、「んん」と伸びをし、襖を開け、廊下のつきあたりの扉を開けた。
「ありがとうございましたぁ!またのお越しをお待ちしてまァす!」
客を店から見送っていた女性が振り返り、「あ!」と声を上げた。
「九十九さん!ダメですよう、パジャマのまんまお店に出てきちゃ」
ひょっこり顔をのぞかせていた男は、叱られたように顔をすくめる。
「や、着替えの服がなくて」
半分寝ぼけてモゴモゴと口を動かす男を遮り、店員の女はキャンキャンと話す。
「イケメンは何着ても似合いますけどね、いくらなんでもパジャマはないですよ」
「や。だからその着替えがさ、」
「式島さんに叱られちゃいますから、着替えてきて下さい!アタシ、九十九さんの世話係じゃないんですからね!」
「…………」
九十九(つくも)、と呼ばれた男は諦めたのか、話題を他に移した。
「ところでサエちゃん。例のアルバイトの紙、貼ってくれた?」
サエは「貼りましたよ」と胸を張る。
「ばっちし入り口の脇にあります。文具店って意外と人気だから、すぐ応募ありそうですよね」
弾む声とは裏腹に、九十九は「やだなぁ」と呟いた。
「新人研修、あれ憂鬱なんだよなぁ」
「ゴネたってダメですよ。あたしの任期は来月までなんですからね」
つんとしてレジに向かうサエを恨めしげに眺めてから、九十九は渋々着替えのために店の奥へ引っ込んだのだった。
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