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「駄菓子やおもちゃはあるのに、ビー玉だけないのっておかしいよね」




消しゴムや定規の棚の前で、私たちは顔を見合わせた。




「千尋さ、道子先輩にからかわれたんじゃない?あの人たまにドッキリとか仕掛けたがるじゃない」




私の指摘に、千尋は眉を下げ、情けない声を上げる。




「えぇー…。でも本当っぽかったよ。チラシも貰ったんだしさぁ」



「チラシなんて自分で作れちゃうよ。本当っぽく思うのは千尋だけだったんじゃないの?」



「…そうなのかなぁ」




両想いとやらになれるビー玉。


それがなくちゃ、この店に来た意味はない。




「とにかく、今日はもう帰ろう?明日もう一回、道子先輩に確認すればいいじゃない」



「うん」




帰り際、私はそっと店内を振り返った。



こんなに物で溢れかえっている店内だけど、よくよく見回してみたら、私と千尋しかお客さんいなかったんだ…



というか、店員さんがいない



いいのかな



万引きとかされちゃいそうだけど




「ねぇねぇ、せっかくだしお茶して帰ろうよ。なんか甘いもの食べたいし」



千尋の提案にうなずきながら、どこか腑に落ちないまま、私は文具店をあとにした。



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