噂の文具店は、白玉駅前商店街の一番外れに建っていた。

ちなみに、白玉駅は私の最寄りの駅ではないので、このあたりに来るのは初めてだった。

いつも使う駅と反対位置にあるこの商店街は、こじんまりしていながらも、東京の下町めいた温かい空気が流れていて、心地いい。



「へぇ、花咲文具店っていうから、個人経営のちっちゃい店かと思ってた」




店の前に立って呟いた私に、千尋が「確かに個人でやってるみたいだけどね」と言う。




「前は確かにちっちゃい店だったのよ。もっと古くて、昔ながらの文具店みたいな感じでさ。でも最近になって新しくなったのよね」



「ふうん」




店の前には、夏前だからか、小さめのビーチボールや花火セットが売られていた。


そのほかにも、スーパーボールやびゅんびゅんゴマのような、昔懐かしいおもちゃも並んでいて、文具店というよりは、半分おもちゃ屋さんみたいな雰囲気だった。




「へぇすっごい。金魚のジョーロとか昔遊んだよねー、懐かしいなぁ!あ!見て見て、駄菓子も置いてあるよ!」



「………」




面白い店だよね!とはしゃぐ千尋の肩を掴む。




「ちょい待って千尋」



「ん?」



「私たち、ビー玉買いに来たんだよね?」




駄菓子を買おうと、小ぶりのカゴに「うまい棒」を詰め込んでいた千尋が顔を上げる。




「あ、忘れてた」



ごめんごめん〜と笑う千尋を引きずりながら、店内を見て回る。


しかし…




「ないね」



「うん」




教室の半分くらいの大きさの店内を一周したが、どこにもビー玉なんて置いてなかった。



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