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罪悪感はあった。


だが反省はしていない。



だってめっちゃ怖かったんだもの!


笑顔がとっても怖かったんだもの!





帰りのバスの中で、人知れず長い溜め息を吐いた。




家の近くの停留所で降りる。




「?」




ふと足元を見ると、停留所のポールの下で、野良猫が顔を洗っていた。




「………」




猫。


特に好きという訳でも、嫌いという訳でもない。


ただ、その猫だけは妙に綺麗で、思わず足を止めてしまった。


夕方のオレンジの光に、背中の灰色の毛が艶やかに反射して、キラキラ光っている。


野良猫だろうか?


いやいや、こんな綺麗な猫が野良猫なわけないよね。




「たりめーだろ。俺は飼い猫だ」



「うんやっぱりね。そうじゃないかと思った」



「飼い猫っつーか、まぁなんだ。飼われてるというより、雇われてる感じなんだけどな」



「へえ、雇われ猫なんだ」




いまの時代、猫も大変なんですね



そう返事をしながら、必死に頭のなかでパニックを制御している自分がいた。



これ…喋ってるよね?



確実に喋ってるよね?




くらりと眩暈がしたが、ここで倒れるわけにはいかない。



駆けつけた救急隊員の人に、



「いやぁ、なんか猫が喋ってて…」



…なんて言えるわけがない。

確実に頭の病院へ搬送されてしまうだろう。それだけは避けたい。



私はそっと猫を見おろした。




「あの、じゃあ私はそろそろ帰ります」




猫に挨拶って何だか可笑しいが、とにかく礼儀正しく会釈をしてから、私は停留所から歩き出した。




そうよ、これでいい。



このまま帰って、適当に風邪薬でも飲んで寝てしまおう。



起きた頃には、いまの出来事も夢になっているに違いない。



猫が喋るなんて有り得ないもの





だが、人生はそう甘くはなかった。



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