いつも湯飲みが伏せてある丸いちゃぶ台に、そのすぐ横にあるキッチン。
床に敷かれたゴザも、赤みがかった木の棚も、焼き魚やみそ汁の匂いも何だかとても暖かい。
「はい、どうぞ」
千津ちゃんはおぼんに乗った朝食セットを手際よく、あたしの前に並べていく。
野菜がたっぷり入ったみそ汁に、白いご飯、まだジュウジュウと音を立てているアジの開きの3点セットは、あたしの食欲を刺激する。
「いただきます」
そう言ってみそ汁を1口飲むと、懐かしい味が口いっぱいに広がる。
あたしにとって千津ちゃんの作るご飯はおふくろの味だ。
「おいし~」
ほっこりした気持ちになってそう言うと、目を細めてこっちを見る千津ちゃんの視線に気が付いた。
メガネの奥の目が、まるで本当の孫でも見るかのように優しい。
こんな大人が身近にいてくれたからこそ、アイチもあたしもこうして笑っていられるんだと思う。
世の中、お父さんやお母さんみたいな大人ばっかりじゃないと、千津ちゃんは言葉を使わず教えてくれた。