おかげで元合唱部のチェリーとあたしは、いつだってただ座っているだけで目的地に到着できる。


とは言え、ただ座っているだけでも、全く苦労がないわけじゃない。


座っているだけと言うのはなんとも暇なものなんだ。


周りを流れていくのは見飽きた景色だけで、だから、ついつい前に座る彼女にちょっかいを出したくなってしまう。


「ねぇ、今日、チワワのおばさんに何て聞かれてたの?」


とりあえず、さっき自分がドッグカフェにいたことをバラしてみると、彼女は予想通りの反応をした。


「来てたの!?」


不意打ちに遭った彼女の声。


何も言わずにニヤニヤしていると、彼女は続けた。


「全然気付かなかった」


そりゃ、そうだ。


仕事中の彼女はいつだって真剣なんだから。


ニヤニヤをしまわずに、いよいよちょっかいをスタートさせる。


「ねぇ、何であんなかっこつけて接客してんの?」


彼女のことだから、「かっこつけていない」と答えると思っていた。


けれど、アイチはためらう様子も見せずに堂々と言い放った。


「かっこつけたいから」


なんとまぁ、シンプルな理由だこと。