午後11時。


いつものようにアパートの下で待ち合わせたあたしたちは、今日も相変わらず、アイチの青い自転車でエッグに向かっていた。


11時ちょっと前にはバイクの前でスタンバイしていたと言うのに、やっぱり彼女は頷かない。


いや、どうせ頷かないなんてことは分かり切っているけれど、頼まないことには可能性はゼロのままだ。


もしかしたらその日の気分で頷いてくれる日が来るかもしれない。


あたしはそんな日を期待して、灰色のカバーの前で待つことをやめないでいた。


「暑い~」


前で自転車を運転しながら、アイチは心からだるそうな声を出す。


そんな彼女をからかうように、チラッと顔を覗き込んだ。


「最近、体力、衰えてきたんじゃないの?」


「失礼な!」


そう言うとアイチは、一気にペダルを漕ぐペースを早める。


「おぉ~、さすが元バスケ部。全国大会行っただけあるねぇ」


中学生の時から、自転車の運転と言えば、毎回、アイチの担当だった。


元々はバスケ部のトレーニングとして、アイチはあたしを、シーやんはチェリーを乗せていたんだけれど、高校を卒業した今も、その習慣は変わらない。