あたしはナイフを握り直して言った。
「まずはあたしの質問に正直に答えてもらう。殺す、殺さないはその後だ」
「なるほど。で?その質問は?」
男はまるで子どもの遊びに付き合うような完全に余裕の態度だった。
あたしはナイフを男に向けたまま、落ち着いた声を意識して言った。
「アイチに何した?」
男は隠す様子も見せず、余裕の笑みで答えた。
「何をしたかってそんなにすごいことはしてないさ。ただあいつに『死ね』と言ったまでだ」
「嘘言うな!」
あたしは1歩前に出て、怒鳴った。
焦りが怒鳴り声に変わる。
「そんなの嘘に決まってる!アイチはそんなことで死んだりしない!」
決まっている。
アイチはこの男に「死ね」と言われたぐらいで死んだりしない。
自分がいなくなったら周りがどうなるかわかるから。
あたしがどうなるかわかるから。
だからアイチは絶対にこいつの言葉で命を捨てるようなことはしない。
男は笑みを消すと、あたしに言い聞かせるように言った。