シーやんの言った「愛生はただ単に走りたかっただけ」を信じたい気持ちももちろんあった。


あったけれど、やっぱりどうしても聞き出しておかなければならない。


一体、あいつはアイチに何をしたんだ。


バイクに何かしたか、道に何かしたか、もしくは彼女を急かすようなことを言ったのかもしれない。



男が控え室に入って行く。


ドアが閉まる。


周りには誰もいない。



カバンの中から、さっき家に取りに行ったナイフを取り出すと、そのまま中に押し入った。


「動くな」


ナイフにはものすごい効力があった。


大人の男の動きを一瞬で止める。


ナイフを向けられた男は驚いた表情を浮かべていた。



けれど、それはほんの少しの間だけで、すぐに顔には冷静さが戻ってくる。


そこに余裕を見たような気がして、思わず動揺してしまう。


あたしのシナリオでは、ナイフを向けられた時点で怯えた表情しか浮かべないはずだったのに。



「何だ。おれを殺すんじゃないのか?」


男はまるで、あたしにはできないとでも言いた気に見下した態度を見せ始めた。


まずい。


ここでナイフの効力が消えれば、アイチのことを聞き出せないかもしれない。