午後7時になると、お経を読んでいたお坊さんが退場した。
続いて、あたしたちも解散になる。
お清め場に向かうみんなの後に続きながら、あたしは絶対にあの男の後ろ姿から目を離さないようにしていた。
あいつはお清め場には入らない。
きっとこのまま帰るはずだ。
そして、その予想は見事に当たった。
あの男はアイチのお母さんと何か少し話をした後、1人、左に曲がって親族の控え室に向かった。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
あたしの少し前を歩いていたチェリーに声をかける。
「行ってらっしゃい」
チェリーはそう言って、みんなの後に続いた。
それを少し見送ってから、すぐにあたしも左に曲がる。
このまま帰らせてたまるか。
男と少し距離をおいて歩いた。
親族が使う控え室には男の荷物が置いてあった。
帰るなら、それを取ってからに決まっている。
さっき、あの男に言われたことをうまく理解できなかった時、あたしは絶対にすべてを吐かせてやると決意していた。
だからそれまでの短い時間で、できる限りの作戦を練って、準備をしてきた。