「帰れ。アイチには会わせない」


アイチ、と言う呼び方に男は笑った。


「気付かなかったな。真海子ちゃんか」


自分の名前を呼ばれたことに吐き気がする。


「あんただけは絶対に許さない。今すぐ帰れ」


許さない。


アイチにあれだけ残酷なことをしておきながら、よくここに顔を出せる。



男はあたしに掴まれていた腕を意図も簡単に振りほどいた。


「残念だが、今日、おれは親族として葬儀に出席することになっている」


「ふざけんな!行かせない!」


全力で男を止めた。


必死だった。


こいつだけは何としてでも行かせない。



けれど、あたし1人の力が大人の男に勝てるはずもない。


男は簡単にあたしを振り払うと、アイチの祭壇へと続く階段を上り始める。


「ふざけんな!行かせない!」


もう1度、手を掴んだあたしを、男は小さな子どもでも相手にするかのような目で見た。


そして、バカにしたように笑うと言った。


「約束したんだよ。おれにはあいつの死に顔をこの目で見る義務がある」


男はあたしに掴まれていた手をまたも簡単に振りほどくと、1歩、また1歩と階段を上って行く。