アイチのお母さんを親族の控え室に連れて行ってから、あたしは今度こそ、外の空気を吸いに向かった。
階段を降りると、その前はすぐガラス戸になっていて、それを出た左側に喫煙用のスペースがある。
そこのベンチに座って、しばらく心を落ち着けよう。
階段をサッと降りると、その前にあるガラス戸に手をかける。
その瞬間、あたしは自分の目を疑った。
頭がうまく働かない。
動きが止まる。
何で。
タクシーから降りて来たあの男は、こっちに向かって歩いて来る。
悲しむ様子も見せず、淡々とした態度で、まるでアイチの死なんて他人事のように。
あたしはドアの前から動くことができなかった。
その間にも男はどんどんこっちに近付いて来る。
やがてドアの前まで来た男は、そこを塞ぐようにして立っているあたしを不審な目で見た。
「失礼」
それだけ言うと、男はあたしの横を抜けて行く。
待って。
何でこいつが来るの。
あたしは思わず、男の腕を掴んでいた。
男が不審な目でこっちを見る。
あたしは男をできる限りの強さで睨んだ。