「すみません…勇気がなくて。…確かに最初からちゃんと愛生先輩に言えばよかったと思います。ごめんなさい」


そう言って頭を下げた多部ちゃんは、なかなか顔を上げなかった。


アイチは煙を吐き出してからタバコを消すと、多部ちゃんの頭に優しく手を置いた。


驚いて顔を上げた多部ちゃんにアイチはいつもの笑顔で言った。


「言っとくけど、あたしは負けないぞ?」


その途端、多部ちゃんの顔に一気に笑顔が戻っていく。


「はいっ」



伝票を持って席を立ったアイチに、あたしも続いた。


目が合った多部ちゃんが笑顔で頭を下げたから、あたしはピースサインを送っておいた。