エッグでいつも飲んでいるジンジャーエールに、タバコ。


この空間に彼女をイライラさせるものは今、1つもないはずだ。


差し出された灰皿を受け取ると、アイチは相変わらずの軽い調子で一言だけ言った。


「ありがとね」


今の彼女にタバコを吸う気はないらしい。


灰皿を置くと、タバコを取り出す素振りは一切見せず、代わりにストローに口をつける。


お気に入りのジンジャーエールを1口すすってからアイチは言った。


「何、何、どうしたの?」


その言葉に少しの間、黙っていた多部ちゃんだったけれど、すぐに決意を込めた目でアイチを見た。


「愛生先輩、今日はわざわざありがとうございます。これから言うことは自己中で最低なことかもしれないですけど、あたしなりに考えて、愛生先輩に聞いてもらおうと思いました」


きっと何度も練習してきたんだと思う。


多部ちゃんはまるで演説のようにスラスラと話した。


アイチはきちんと話を聞こうと言う姿勢で、多部ちゃんのことを見ている。


けれど、多部ちゃんはそけで話を切ってしまった。