いつもだ。気付いている。

 わたしを連れて飲みに来ている蓮が、あまり楽しそうにしていないことを。笑顔は見せている。でも、その笑顔は心から楽しくて見せる笑顔なの? タケさんと笑い合うところを隣で見ていて、蓮がわたしに向ける笑顔となにかが違う。違って見えてしまう。そんなことばかり考える。楽しくなりたくて、お酒を飲みに来ているのにね。

 おつまみのナッツを口に入れ、指を舐める。しょっぱかった。

 二時間程が経ち、グラスを空けた蓮(れん)が、そろそろ帰ろうと言った。

「そうだね。タケさん、お会計お願いします」

 財布を出すわたしの手元に、五千円札を置く蓮。

「この間も奢って貰ったよ?」

「良いよ。じゃあ次は詩絵里持ちで」
 次はって、八割は蓮が出しているのに。「ありがとう」と言って、そのお札をタケさんに渡し、お釣りを貰う。貰う時に、ぎゅっと手を握られる。

「またおいで」

 タケさんがそう言って、あめ玉をくれた。相変わらず子供扱いするなぁ。まぁ、タケさんから見れば、わたし達なんてほんの子供なのかもしれない。

 重い鉄のドアを開け、また更に深くなった夜へ、紛れ混むように店を出た。
 蓮の後ろから地上へ出る階段をのぼり、貰ったあめ玉を口に入れた。

 夜に染められたビルの間。コンクリートの隙間。こうしていると、わたし達はどう見えるのだろう。

 二十一歳になったふたり。同じ高校、専門学校を卒業して、蓮(れん)は就職、わたしはスーパーで働く。

 いつでも会えるけれど、元気ならばそれで良い。

 付かず離れず。でも、すぐそばに居る。恋人じゃない。だからって家族って程に近いわけでもない。そしてわたしは、友達だとは思っていない。

「苦しいなぁ……」

「え、なに? 具合悪い?」

 うっかり出た独り言を、蓮に聞かれてしまった。

「なんでもないよ。独り言」

 手、繋いで帰りたいなんて、言えない。
 テレビとDVDデッキの配線は頼めても、手を繋いで良いかとは言えない。
 携帯の設定を頼めても、抱きしめてほしいとは言えない。

 夜の道を、トボトボふたりで歩く。街灯に照らされて、地面に落ちる蓮の影。その影を、わたしは踏んづけながら、後ろを歩いた。

 しばらく歩いて、その背中に問いかける。

「蓮、つまらなくない? 友達と飲みに行けば良いのに」

 飲み過ぎて酔っているせいにして、聞いてしまおう。

「わたしとじゃなくて……」

 そんなに飲めないから、わたしは飲み友達じゃない。
 分かっている。蓮はわたしのためを思って連れ出してくれている。分かっているのに、こんな風に言ってしまう。

「詩絵里が、つまらなそうにしてるからだろ」