【きのうは、あの後すぐにタクシー拾えたから助かった。ちょっと寒かったね、風邪ひかなかった?……】

 飲み会の次の日の夜、ミナトさんからメールが来た。ふわっと心が温かくなる感じ。自然と笑顔にもなった。ミナトさんはあたしに好意を持ってくれてるみたい。

 でも。自分の中の警報が微かに鳴りだす。傷付いて泣くより、蓮のそばに居たほうが。そんな考えがよぎる。でも、でもでもでも。
 金魚に餌をやり、携帯を開く。アドレスを探し、そして発信。

「あ……こんにちは。詩絵里です」

「メールしたのに電話してくるんだね」

 電話の向こうで、ミナトさんはクスクス笑っている。
 あたしは、前に進まなきゃいけない。いまはまだ、チラつく蓮の顔。チラリと鳴る警報の中。それが段々無くなるまで、無くなれば、きっと忘れるに違いない。そうしていかないといけないんだ。

 そして、蓮に気持ちを伝えるのではなく違うところ、楽な方に行こうとしているあたしはずるい。別な手が差し伸べられていて、そっちを掴もうとしている。ずるいって分かってるけど、1人で立っていられない。蓮がずっとそばに居て、その日常から手を離すなら、空いた手を、ミナトさんに……。

 最低だ。分かっていても、他に方法が分からない。あたしは電話で、次の休みに会う約束をした。まだ、蓮の事を考えながら。

「はい、じゃあ」

「電話ありがとう」

 少しだけ喋って、ミナトさんとの電話を切ったあと、別な所へ電話をかける。

「うんそう、2人で会う約束したんだ」

 今度はヨウコちゃんに状況報告。どこか外に居る様で、電話からはガヤガヤとした音が聞こえる。