「ハァ……ハァ……」


その瞬間。

――ブーッ……ブーッ!

バックの中で、マナーモードにしていたケータイが鳴る。


誰?

こんな時間に電話なんて……じいちゃんたちかな?

早足で歩きつつも、ゴソゴソとバックの中から、ケータイを取り出した。


陸の家までは、あと15分ほどで着くところだ。

電話の相手は、やっぱりじいちゃんで。

歩くのを止めて、通話ボタンを押す。


「じいちゃんっ……?」


息が多少上がったまま、ケータイを耳にあてた。


「杏樹か?」

「うん」

「バイトは終わったのか?」

「うん」


真っ暗な道で、通話の声だけが響く。

空を見上げると、わずかに星が見えた。

あ……明日晴れるかも。


そんなことを考えて、息を整えていたのに。



「杏樹、仕事を言い渡す」


じいちゃんの厳かな声で、あたしの気は引き締まる。


「ごめん、じいちゃん。ちょっと陸のとこに行ってからでいい? さっき倒れたって聞いて……顔見たら帰るから……」


ダメもとで、頼んでみた。

仕事は、明日からじゃダメかな?

けど、じいちゃんの対応は……。


「……杏樹。お前に来た依頼なんじゃ」


なんだか……元気がない。

悲しげなもので、こっちが不安になる。


「あたしに?」


ケータイを持つ手に、力がこもってきた。


「今から……依頼主のところへ行ってもらう。よいか?」


じいちゃんの言葉に、あんまり頷けない。