1番聞きたくなかった言葉が、耳に入って来た。


「……え? 倒れた……?」


ワンテンポ遅れて、そう聞き返す。

今、自分の手に、何も持っていなくてよかったと思った。

だって、ものすごく震えているんだもん。

ガタガタと小刻みな運動をする手を握りしめ、どうにか落ち着かせようとする。

でも、陸が倒れただなんて聞いて、平然とはしていられなかった。


「社長室で、倒れている所を秘書が見つけてね、病院に行ったらしい……」

「そ、それで……容体は……?」


あたし、声震えてるかも。


病院に運ばれたこともショックだったけど、それよりも今どうなのか知りたい。

小田さんの目をジッと見つめる。

ただの女子大生だと思っている彼は、どうしてあたしがここまで必死に聞いてくるのかと不思議そう。

あたしと陸の関係はバレたっていいの。


だけど、このバイト中に、陸のことを知る手段は、彼らの情報しかなかった。



「ご自宅に戻られたって聞いたけどね……」


その言葉を聞いて、ちょっとホッとする。

入院とかはしなくて良かったんだ。

そこまで大事ってわけじゃないのかな?


でも、アイツの顔を見るまでは……怖いよ。



あの笑顔で『バーカ、心配すんな』って、聞くまでは……。


「そうですか……」


接客用の笑顔をつくることも忘れ、素のまま返した。


「杏樹ちゃん?」

「え?」

「社長のこと、気になるの?」

「あっ……いや。私と同い年なので、気になって……」


とっさに誤魔化す。