「お? 彼氏くんと旅行か?」

あたしの返事に、ニッと笑う小田さん。


「ちがいますよ。そうじゃなくて……祖母のところへ行ってたんです」


ちょっと笑って、簡潔に話した。

ただ遊びにとか行ったわけじゃないけど、普通、祖母の家とかなら、遊びに行ってたと思われるよね。

陸とも、来るって約束して来たけど……。

それが叶うのは、いつかな?


「いいねぇ。おばあさん孝行だ」


そう言って、彼は、目を三日月のように細め、笑い返してくれる。


「小田さんは、今日も皆さんと楽しそうですね」


ビールを口に運んでいる部下の男性たちの方を見ながら微笑んで見せた。

しかし、あたしの一言で、彼らの表情は一変する。


「あ、うん……。本当は、こんな風に飲んでいていいのかと思うんだけど……」

「え?」


小田さんは、やけに歯切れの悪い言い方をした。

どういうこと?

それって、やっぱり……さっきの会話に関係してるのかな?

ジッと彼らを見つめていると、小田さんがフーッと息を吐き、テーブルに並んでいた、料理の枝豆をひとつつまむ。


そのまま、グイッとビールを飲んだ。




そして……。


「杏樹ちゃんには話したよね。私たちの会社の社長のこと」


ゆっくりだけど、口を開いた。


「はい……。すごく若いって……」


――ドクンッ……

あたしの心臓が、大きく鼓動を打つ。

なんだか、怖い。彼らの話を聞くのが……怖いよ。



やがて、少し沈黙があった後。





「実はね、その社長が……今日、倒れたんだ……」