襖で仕切られた部屋からは、何やらオジサンたちの会話が聞こえてきた。


「大丈夫だろうか。過労って噂だけど……」


そうやって、ひとりの男性が言うと。


「ぶっ倒れていたところを、発見されたんだろう? 病院に行ったらしいが……」


もうひとりの男性が、口を開く。


どうやら、誰かのことを心配した話のようだ。

さっさと置いて、戻ろうっと。


そう判断して、お客さんに声をかけてから襖を開けた。


けど―――。


中にいたのは、もうおなじみの……小田さんたち。


この前、陸の話をしてくれた部下の方も一緒。


「失礼します」


一礼をして、キンキンに冷えたビールをテーブルに置く。


「おぉ! 杏樹ちゃんじゃないか」


あたしに気付いた小田さんが、軽く手を上げた。


「こんばんは、いらっしゃいませ」


ニコッと笑って、接客をする。



知らないお客さんだと思っていたのに、小田さんたちだったとは。


じゃあ、さっきの会話……誰のことだろう?


頭の中では疑問だらけだったけど、この状況では聞けない。



だって、あたしが陸の彼女だということは皆さん知らないし、ましてや、ただの女子大生に会社の情報を漏らすことはできないよね。


グルグルと頭の中で考えて、今は接客に専念しようと思った時。


「杏樹ちゃんは、先週……お休みだったのかい?」


小田さんから問いかけられる。


「はい、ちょっと京都に行ってて……」


京都に行った目的までは、離せないけど、そんなに隠すことでもないから、普通に返した。