そして次の日の夜

「ケンさん、韋駄天君は?」

「なんや、知らんけど天界に物を取りに帰ってるで」


静ずまりかえった、二人(一人と一匹)の部屋で真一はポツリと言った。


「ケンさん」

「なんや?」

「人間はどうして死ぬ為に生まれて来るの?」

「なんや、いきなり。けったいな事聞くな」

「うん、死ぬ事が身近になってね。僕は今まで考えた事もなかったんだけど・・・・急にそんな事ばかり考えるようになったんだ」

「ほうか。確かにな、生まれた瞬間から死に向ってるわな。しかしな死ぬ為やないで、生きる為やで。真一」

「生きる為?」

「そうや、真一くらいの歳やと。まだまだ人生長く感じるかも知れへんけどな。人間の一生なんてあっちゅう間やで」

「そうなんだ、こんな事になるまで無限に生きれるような気がしてたんだ」

「わいも、若い時は同じやったで、そやけどな人間の一生なんちゅうのは長さやないんや。どう生きたかなんやで」

「どういう、意味かよくわかんないよ」

「真一、なんの為に勉強してる?」

「そりゃあ、いい大学入っていい所へ就職する為だよ」

「しかしな、そんなんなるのは一割の人間やで。後の九割はどうする?」

「だから、皆そうならないように・・・・一割の中に入るように頑張ってるんだよ」

「その為の勉強かいな」

「そうだよ、他に何があるんだよ?」

「わいもな、中学しか出てへんけどな。人生の半分は務所(刑務所)暮らしやったさかい、その間な沢山の本読んで漢字や歴史も勉強したんや。オマケに珠算の級まで取ったんや。そやから、そこら辺の大学出たやつより計算は早いで」


「それだったら、早いか遅いかだけで勉強した事には変わりないじゃない」


「あのな、耳の穴かっぽじいてよう聞けよ。真一のは与えら得れた答えのある勉強や!わいのは自分の頭で考えて答えを見つけ出す勉強や!」


「もう、ケンさん。理屈っぽいのは止めてよ」


「本当に勉強してんのか?真一!世の中出たらな、答えの無い問題ばかりなんや。参考書もあらへんねんで。なんか有った時は、自分の頭で考えて答えを出さんとあかんのや!その為に勉強せぇっちゅうてんのや」