ハカセの表情はおだやかで、優しかった。それゆえに彼が静かに募らせた想いがどれだけのものかを垣間見た気がして、胸がつかえた。


「わたし少しも、気付かなくて……ただ、仲良しだなってくらいにしか、思ってなくて……」

「うん。僕は、そういう目を利用してたんだ」


どういう意味?

視線で問えば、ハカセは微笑んだけれど眉を下げた。


「教室では男女の仲良しグループに紛れて、教室を出れば瞬とマヨマヨっていう男女の幼なじみに紛れて、僕はみくると仲がいい、ただの男子になれた」

「それ、は……」

「楽しかったよ。みくるのそばにいられたし、ずっとこのままでいたいなって思ってたくらい」


でもね、とハカセは言う。


「みくると仲の良かった子が瞬を好きになって。みくるを出し抜こうとしていて。みくるはとても、つらそうで……だけど笑うから、僕がいるのに、って思っちゃったんだ」

「……ハカセは、ずっと相談を受けていたんですか」

「うん。でも、みくるがマヨマヨに相談しなかったのは、頼りにしてないからじゃないよ?」


どうして気付くんだろう。どうして、わたしじゃ頼りなかったかなって気持ちを、掬い上げてくれるんだろう。


「本当に頼れる存在だから、些細なことでもすぐ頼る自分にはなりたくなかったんだと思うよ」


……その気持ちは、よくわかる。


だけど、相談してくれてよかったのにって気持ちもある。