「知ってるよ、俺は。瞬のことも万代のことも好きだけど、博にも惚れたんだもんな?」


ひろむって……ハカセの名前。


「博は優しくて、いつもアンタを最優先して、相談も親身になって聞いてくれて。いいやつだよな。だから仕方ないって言ってやったのに」


ハカセに惚れるのも無理はないってこと……?


だけど、それをあなたが言う必要ってある?


「べつにいいじゃん。心変わりなんてめずらしくもなんともないだろ。10代の恋愛で、高校生で。ずっと付き合って結婚までするやつなんて、ひと握りなんだから」

「ちょっと……っ島崎くん!」


両人のあいだに割って入ったわたしを冷たい瞳が射抜く。


「どうせ泣くのなんて今だけだろ」


言葉を呑んだわたしをしばらく眺めたあと、島崎くんはD組全体を見渡しながら口を開く。


「朝からどこ行っても噂ばっかりだけど、なにがめずらしいわけ? 楽しいの? どいつもこいつもうるさすぎ。黙ってられないなら、早く解決してほしいんだけど」

「……」

「それに俺、言ったよな。他人に守らせて自分はかわいそうなんですーって戦おうともしないやつ、嫌い」


“他人”でわたしを指差した島崎くんの人差し指は、“戦おうともしないやつ”でみくるちゃんに向けられた。


そのとき初めて、彼が『じきにわかるよ』と言っていたのは、広まってしまった噂を差していたのだと気付いた。