「瞬、それちゃんと答えた? こう、察してあげた?」
「てめえ俺をバカにしてんのか」
「してないけどさあ!」
「俺は訊いたぞ。『友達やめてほしいのか。しゃべってんのも嫌なのか』って。そしたらあいつ、『そんなこと言ってない』ってブチ切れやがった」
あくまで、はっきり言えってことか……。
「言われたら距離置くの?」
「さすがに無視まではできねーけどな」
みくるちゃんもわかってると思うけど、瞬じゃないんだから『関わるな』とは言えないよね。瞬だって気のない素振りは取っていたわけだし……。だから以前わたしには『気にしないようにしてる』と言ったのかもしれない。
「……仲直りしないの?」
起き上がった瞬は黙り、やがて網戸をすり抜けてきた男女の口論にチッと舌打ちをする。
「窓閉めろ」
「……瞬、」
「黙れ。早くしろ」
立てた両膝にだらりと乗せられた手首と同じように、瞬の頭も力なく垂れる。
わたしは微かに聞こえる瞬の両親の口論を遮断するため、窓を閉めた。
カーテンの裾はもうひるがえらない。5月の風も部屋に流れ込まなくなった。
この空気はよく、知っている。酸素が薄くて、汚れて見えて、棘さえ持っている。もちろん錯覚なのだけれど、上手に呼吸ができなくて、息苦しいんだ。
「――…、眠いの?」
隣に座ったわたしへ体を預けてきた瞬に、『大丈夫?』とは訊かない。
「……疲れた」
わたしは瞬の頭に、頬を寄せることしかできなかった。