「ぷっ、はっはは! 誰がてめぇみてぇなクズ殺すか、バーカ」

こめかみに向いていた銃口は上へと逸れ、煙は空をめがけ伸びている。
腰を抜かした賊の足元は、失禁で水たまりができ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃに歪み、なんとも哀れな姿となった。

まずは一人、戦闘不能。


今回の計画の目的は乗っ取り。この賊の件で名を売り、王の懐に潜り込み、ゆるりと勝ち取った信頼を覆し、奪う。

故に、この賊の件でシェラに気に入って貰えれば、名を売りやすくなり、後々に信頼を受けやすくもなる。

だから殺さないのだ。殺してしまえば楽なものを。


「このガキ!」

リーダーが怒り、腕を振り上げ――

「グラビティ!」


叫びながら振り下ろす。ユェは見えぬ力を走り避け、力なく腕を振る。

一瞬の隙を突き、操るは力なき少女。気を失っているのかグッタリとしているが、お構いなしに塀の所まで歩かせ座らせた。邪魔にならぬように。


その間にもユェはリーダーに走り寄る。リーダーへ辿り着くまで、近くには賊が二人。


「能力、仲間に頼り過ぎだ」

走るユェはぼそりと呟き、腕を振る。操る糸の先は――


「なんだよ、これ!? 畜生、どうなってやがる!」

「ぐぁ!」

「うぐっ! なにやってんだ、ハンス! やるならガキ巻き込め!」


「これで攻防ゼロだな。無防備」

鼻で笑い、糸を手繰るユェ。二人の賊をリーダーの能力で地に伏せさせ、抑え込む。その隙にリーダーの懐へ潜り込んだ。


「とりあえず、チェック」

「しまっ……!」


拳を上へ突き出し、垂直に跳ねるユェ。拳を顎に命中させ、短い滞空時間の後、足が地へとついた。