玄関を通り抜けて、外に出た瞬間抑えきれなかった涙。

泣き虫な自分がどれだけ嫌いか計り知れない。



泣きたいなんて思ってもいないのに、流れてくるのはなぜだろう。



懐かしい記憶に触れて、懐かしいぬくもりに触れて、懐かしい優しさに触れた。

今年の春頃だったなら、きっと素直に喜べたんだ。


今は行くべきところがあるから。

もう気づいちゃったから、亜蓮の気持ちを受け入れるのは難しい。



片手に持った荷物──借りた洋服と愛用してる財布。

その上に、いつの間にか無意識に入れていたライター。


さっき取り上げた時に、ついうっかり入れてしまったらしい。


度々ごめん、亜蓮。

けど、未成年のタバコは法律で禁じられてるから吸っちゃダメなんだよ。


本当は返したい。

そもそもライターなんて持ってたら、見る度に亜蓮のことを思い出すだろう。


それでも、捨てるわけにも今から返しに戻るわけにもいかないから。


仕方ないよね。

次会った時に話をするって約束を、忘れないために持っておこうと思う。





泣いていたのがバレないように、目の赤味が引くまで待機。

亜蓮の家から、さほど遠くない次の目的地。


深呼吸を数回繰り返してから、震える指で玄関のチャイムを押した。




「久しぶりだね、ゆずゆちゃん」