「た、かぁ……」
かすれた声で、精一杯名前を呼ぶ。
「…ん?」
そうすると、空はいつだって…。
ほら、やっぱり。
目を細めて、笑ってくれる。
あたしの言葉を待ってくれる。
「…すきー…」
きっと、あたしの目はもう涙が零れ落ちそうなほど、涙目で。
風邪で、顔はきっと真っ赤になってるけど。
それでも、いいんだ。
空は、ありのままのあたしを好きになってくれたから。
「…かわいすぎやろ」
「…え?」
空は真っ赤になって、目を背けて、何かつぶやいたけど、聞き取れなかった。
「空…もうどこにも…、行かんで…」
かれた声を痛む喉から、必死に出して、
がんがん揺れる頭も、気にせずに。
その言葉を言った直後、あたしはすぐにまた、意識を放してしまった。
「どこにも行かんよ」
そう言った、空の笑顔を見てから。
あの日、あたしが倒れた日から、一週間たった。
あの日から二日間は、本当に空のベッドで寝てた。
でも、だからって何かあるわけでもなく…。
まぁ、何かあっても困るんだけど。
ご飯作ってくれたり、看病してくれたり、色々と空がしてくれた。
いつも通りの、優しい空。
でも、あたしにはひとつの疑問が浮かび上がった。
今のあたし達の関係は何?
空は、あたしの告白について、あれから全く触れることがない。
一緒に登下校したり、朝迎えに来てくれたり、元に戻っただけ。
幼なじみ、そうなんだけど、でも…。
あたしの心の中はモヤモヤしたものに、包まれてる。
「んー…何やろうね。うちは、もう付き合っとんかと思った」
あたしの疑問に答えるのは、花音。
まぁ告白されて、別々に行き始めて、また戻ったら普通そう思うよね。
「あ゛ぁー!!!何やろう、何なんやろう!」
気になる、気になる。
どうしていいのか分からない。
「何にしても、自分で気付いて良かったっちゃ」
「うんー…」
恥ずかしい。
花音は気づいてたんだ。
…当の本人より先に。
「っていうか、何で気づいたん?」
「いや、誰が見てもそうやろ!普通好きやなかったら、一緒に学校なんか行かんって!」
「でも、准も……」
「それはそれ!空は幼なじみやろ?」
…確かに。
でも、みんな気づいてたっていうのも、恥ずかしい。
だから付き合ってるって思われてたんだ。
っていうか、ずっと両想いだったの?
それはそれで、残念な気もする。
「空は…どう思っとんやろう…」
「は?どうって?」
花音が訳がわからないというように、噛み付いてくる。
「だってさ、あたしのこと…す、好きだとしても、付き合いたいと思うかは別やろ?」
あぁ…。
どもってしまう。
でも、そんな簡単に言えないよ。
「そうかねぇ?それは空に聞いてみな分からんけど」
「…ん」
つまり、聞かないと前に進めないってことか。
今日も、夜遅くの帰り道。
『あのこと』を聞くために、適当な理由を見つけて、花音と准が席を外してくれた。
まだ夏だから、夜でも明るくて、空の顔がばっちり見える。
バッグを肩にかけて、制服を着て、歩いてる。
それだけで空はかっこいいの。
明らかに『男子』って感じるっていうか…。
男らしい。
あ、この気持ちが。
これが、恋なんだ。
ずっと、恋してたんだ。