引き出しの中にあるピアッサーを片手にガタガタ震えた。


私はなんでこんなことしなくちゃいけないのですか?




友達は友達のことを許して絆を深めていく関係じゃないのですか?




過ちを許しあって深い糸で絡みあい続けるのじゃないのですか?



あ―やっぱり震えてできない。




私だって人間だもの痛いのはイヤだよ。それでも罰は罰。



私は…どうして生まれてきたのかわからない。




玩具として生まれてきたんじゃない。




ヒーローがこの世に存在するなら今すぐ助けてください。



イヤな汗が自然に頬を伝ってくる。




ハア……ハア。




これを成し遂げたら自分を誉め称えてあげたい。




ねえ…友達は誉めてくれる?



痛いんだよッ!



あと一歩の手が動かない。動かしたくない。




そんなの激痛が体に走って死ぬに決まってる。




もっといい環境に住んでいて周りもあんな友達じゃなければこんな思いしないで済んだの?




こんな逃げられないオリに入れられて苦痛だ。




次第にお腹も痛くなってきた…。




置かれてるこの状況を確認して思った。




幸せは私には訪れないと。




幸せは掴めとれる人と思い描くことしかできない人がいるということを。




私は心の中でそう諭したあと指を押し込んで耳に穴を開けた。



ポタッと一滴。血が黒いワンピースに落とされその血のにおいが香る。



やってしまった。




歪んだ体に穴を開けてさらに私は歪んでいく。




事の済んだあと激痛にさらされる。




どうして私だけ。




報われない私にムカついた。これだけのことをしたのに誰も見てくれる人はいない。



明日になれば星野 芽瑠はまた何かヤラカシタという目で見てくる。




生きてる…この激痛が証拠に私をまた歪ましていく。




この血は誰のところにも匂いは届かない。




誰かそばにきて血を吹いてください。そして私に幸福をください。




これだけのことをしたのだと抱き締めてください。




そんな私の願いはいつも描くことしかできない幸せ物語であって透明にされて消えてしまう。



芽瑠side



昨日なんて激痛の所為で一睡も眠れなかった…。



黒いワンピースに落ちた一滴がまだいまだに漂ってきそうだった。



開けたのは左耳の方。



なんか私はいつでも左利きだったしケータイの持つ手も左。



美佐からかな…。



着信が1件来ていた。



叶だった。あの日私がピアスを開けた時間の1分あとだった。



もっと早く電話をしてほしかった。間違いを犯す私を止めてほしかった。



遅いよ…。



激痛に耐えながら体を起して叶に言いたかった。



「叶もピアス開けてよね」って。



ずるいよ。そんなのずるい。



もう血は止まっているだろうか。変な目で見られないだろうか。



「悪魔マリアは病んだのか」と夜の傍観者は私にこう言うだろうか。



濁った水は元には戻らない。そんなこと当然なこと。


だから私の濁った心と体は戻らない。



戻らないって…前もこんなんだっけ。



激痛に耐えつつも教室までたどり着いた。



誰も左耳に穴が開いてるなんて気づかなかった。



ただクラスメート1人が入ってきたとういう感じでみんなは気づかなかった。



「あっ芽瑠開けたんだ」



美佐以外のみんなはね。



痛かったでしょぉ?とわざと聞いてきて私は頷いた。


殴りたくなってしまった。それをグッと我慢してスカートの裾をギュッと握りしめた。



「私の彼氏なんだから取らないでよぉ」

「ごめん。ていうかペンダントはどうしたの?」



美佐はあの時カバンにしまってちぎって捨てた?




「いつか捨てるのぉ叶が遊びに来た時にぃ」

「それってまずくない~美佐」

「そうだよぉどうすんの見つかったら」

「スリルあって面白そうじゃん」



美佐はそういうこと好きだもんね。ヤラレタたら倍にして返す主義だから。



思えばあのペンダントの意味はわからないままもらってしまった。



美佐も知らないと思う。



「あっ叶くん――」

「……」



この二人上手くいってるの?



美佐の一方的な感情だけしか見えない。



美佐に抱きつかれるまま横目で私を見た。



え…気づいた?



そんなわけない穴は小さいし、いくら視力がよくても見えるはずがない。



もしかして電話を取らなかったから見てるとか?



はは…それはない。



「ねぇねぇ叶くん~今日美佐の部屋に来てぇ?」

「ああ―…いいけど」



ペンダントちぎって捨てるつもりだ。



叶にバレたら…ヤバいんじゃないの?



それで失敗したとか言って私にあたられたら困るよ?





そういえば制服綺麗になってる。



朝は激痛で玄関の外に置いてあった制服を見ないまま来てしまったから、こんなに綺麗になってるなんて気づかなかった……。



私が住んでるマンションに来たってこと?




それって……叶がもういつだって私のところに来れる?




ということは、助けに来てくれる?




―――…何考えてんの。




バカじゃん?




「芽瑠~叶くん私部屋に来てくれるってぇ!」

「うん」

「ちゃんと聞いてたのぉ?」



聞いてたよ生でね。



心臓が壊れて粉々になる自分の音も聞こえたよ。






叶side



芽瑠の綺麗にしてあげた制服を見に教室に来た。



着てくれていた。




俺が昨日届けに行くといったのに一緒に働くメンバーの一人が「叶さん抜けたら客減ります」とかいうから行けなかった。




芽瑠が帰ってからすぐ届けにいったから俺は1時間後に電話した。



だけど芽瑠は電話には出てくれなかった。




俺は美佐と付き合っていながら芽瑠を想ってしまう。




ペンダント…大切にしてるのかな美佐は。




あんなにほしがっていたし大切にしてくれるなら後悔は少し無くなるけど。




わだかまりを抱え込んでるところに悠馬が俺に忠告した。








「美佐の家行くのか?」

「ああ―…」

「今のうち忠告しておくひどい目に会うぞ」




ひどい目?




なんで俺が?




「その内わかる」




この言葉の意味をわかってなかった俺。悠馬の助言に聞いておけば良かったと感じたのは事の終わったことだった。