「どうしたの、ユカリさん」
その言葉に、彼女ははっと気付いたように顔を上げる。
「おはようございます。ショウタさん」
うん、おはよう、と返す。
「その、ごめんなさい……遅れてしまって」
彼女の言葉には本当に悲壮感があった。
「別に問題ないよ。それよりユカリさん、大丈夫?」
聞きたい。
言って欲しい。
何があったのか。
「……大丈夫です」
「……そう」
すると、彼女は急に笑顔を作って、
「遅れた私が言う事じゃないですけど、早く行きましょうっ!ほら!」
と言った。
「ユカリさん。サーキット方面のバスが来るまで、待っていなくちゃいけないよ」
「え……あ、はい。そうですよね」
彼女は出来るだけ明るく振舞おうとしているように見える。
だったら、僕はそれに合わせるしかない。
「うーん。そんなに急ぎなら走っていく?僕百メートル十秒切れないけど」
「いくらなんでも遠いですよ。バスを待ったほうがいいです」
「それもそうだね」
僕らはいつも通りになった、と思う。
たまに吹く風は、僕らには冷たすぎる。
指がかじかんで、うまく動かなかった。