「まあいいわ。もう一度説明する」

会長の田無さんは、口は悪いがその実は心優しい人だ。

その内面があるからこそ、僕は真面目に話を聞くんだと思う。

「この間、飛び降り自殺未遂があったでしょう。その生徒の行動を監視するの」

……監視だなんて、物騒な話だなあ。

「まあ監視と言っても彼女の行動範囲に監視カメラを設けたり、盗聴器を設けたりするわけではない。それとなく情報を集め、非常の事態を未然に防ぐことが目的である」

言われなくても前者はしない。
するとしたら麻田本人くらいのものだ。

「生徒の名前は雪城ユカリ。――名前は知らなくても、眼帯をつけた生徒と言えばわかるでしょう?」

眼帯――学校にはそぐわないその単語から、記憶の棚をめぐる。

眼帯をつけた生徒。

確かに、見たことがある。

長い髪をリボンで軽く結った女生徒。

雪城ユカリって言うんだ。
知らなかった。

「その生徒の行動の監視。と言っても麻田君の言うとおり、特に目立ったことはなにもしなくていいわ」

ふうん。



で?

「……それだけ?」

「それだけよ」

それだけで呼び出されたの?

「……今日はいつもなら部活に出る日なんだけど」

基本生徒会には出なくてはならないのだが、会長との取り決めで週に一度はパソコン部に出てもいいことになっている。

だが、今日は大事な話があるって言うから出席したんだけど。

とても大切な話には思えない。

「これは生徒の命が関わっているのよ。大事な話よ」

もしもその生徒、雪城ユカリが立ち直っているなら監視なんてする必要がない。

「この件はメールで良かったんじゃない?」

そう思う。
余計なお世話だと。



しかし、麻田は表情を変えず、それは問題ではない、と続ける。

「一応生徒会の機密にあたるから呼び出した」

麻田は僕が情報漏洩でもすると思っているらしい。

そこらへん、僕には信頼がない。普段の麻田よりマシだが。